第35号 2011年08月30日
メルマガ vol.35 「税効果会計~グループ会計方針

 

 今回のメールマガジンでは税効果会計についてグループ会計方針(グループ・アカウンティング・ポリシー)の観点から考えてみたいと思います。
  このメールマガジンでも税効果会計(主として繰延税金資産の回収可能性)は既に何度か取り上げています。まず、第18号「ケーススタディ⑨~税効果会計」では、IFRS適用企業の開示例を中心に、IAS12号の概要とIFRS適用企業は税効果会計についてどのような開示を行っているのかをご紹介しました。また、第23号「繰延税金資産の回収可能性~IFRSとJICPA監査委員会報告第66号」では、IFRSを先行適用した日本企業において、IFRS適用時に繰延税金資産の金額的影響が非常に大きかったことや、日本の現在の実務指針(監査委員会報告第66号、以下単に66号といいます)をIFRSと比較して理論的な検討を行いました。復習として、23号の要旨は次のようにまとめられます。


日本企業でIFRSを先行適用した企業では、導入時の資本調整額のうち繰延税金資産が占める割合が大きい企業があった
                          ↓
これらの企業では、IFRS適用後に繰延税金資産の金額が増加している(注1)
                          ↓
これは、J-GAAPの方が繰延税金資産の回収可能性についてより保守的な判断を求めていることが原因と考えられる
                          ↓
ところで、66号は監査人・企業の判断の幅をある程度限定する
                          ↓
特に66号でいう③・④但し書きの会社は5年経過後に回収予定のDTAを計上できない
                          ↓
IFRSが導入され(66号の縛りがなくなると)課税所得の見積もり期間が画一的に制限されるケースは少なくなるかもしれない


66号の問題点は何なのか?
 
メールマガジン23号でも触れたように2010年12月に大手商社21社の参加する社団法人日本貿易会は日本公認会計士協会に対して、66号が事実上の会計基準として機能していること、スケジューリング期間の制限があることや税法との不整合性が生じること、税効果会計の実務が日本に定着したこと等を理由として66号の廃止を要望しています。
同会の要望の一部を見てみましょう。


 会社がもし、66 号の「5.(1) 将来年度の課税所得の見積額による繰延税金資産の回収可能性を過去の業績等に基づいて行う場合の判断指針」における区分「③」及び「④ただし書き」に該当すると判断された場合、一律、5 年内の課税所得の見積額を限度としたスケジューリングの範囲内でしか繰延税金資産を計上できないこととなる。・・・(中略)・・・「③」や「④ただし書き」に該当すると判断された会社の中には、課税所得の獲得能力に特に重要な問題がない会社も十分存在し得ると考えられ、そうした会社まで見積り期間が画一的に「5 年」に制限されると、繰延税金資産が過小評価され、会社の経済的実態を反映しないことも起こり得る。


 また、66号のような具体的な判断基準を設けた場合の問題点として、「信用力のある顧客と契約済みの20年間長期供給契約から生じる利益で回収可能性があると判断された繰延税金資産は、新興企業が1年内に予測する将来取引から生じる利益で回収可能と判断した繰延税金資産よりも信頼性が高いといえることもある。」という指摘(注2)がなされることもあります。要するに、66号の問題点の一つは企業の将来の課税所得の見積りと繰延税金資産の計上を制限してしまう場合があり、企業の経済的実態を適切に反映できないおそれがあることです。
  IFRSは国際的な会計基準であるため、繰延税金資産の計上に関して具体的な数値基準やガイダンスを設けてその計上を制限するようなことは今後もないと考えられます。 よって、IFRS適用時に重要なのは、各企業が自社の実態を反映できるようにアカウンティング・ポリシー」を策定する必要があるということ、すなわち税効果会計の問題に即して言うならば、各企業が将来の課税所得の稼得可能性=繰延税金資産の回収可能性を、66号のような具体的な指針も参考にして自社のグループ会計方針として落とし込むことが必要となります。

グループ・アカウンティング・ポリシー(開示例)
 具体的なグループ会計方針をどのように策定すればよいのでしょうか?
 例として、IFRS適用企業の繰越欠損金に係る繰延税金資産の回収可能性の判断にあたっての会計方針の開示例をご紹介します。
  IFRSでも、J-GAAPと同様に税務上の繰越欠損金について繰延税金資産を計上することは可能ですが、未使用の繰越欠損金の存在は将来の課税所得が発生しないことの強い証拠となる(IAS12.34)ので、税務上の繰越欠損金の利用可能性についてはJ-GAAPよりも厳密な検討が必要とされています。


  当グループは、各期末に、重要な繰越欠損金を有する特定の課税対象企業が計上する繰延税金資産の回収可能額について見直しを行っている。
  税務上の繰越欠損金から生じる繰延税金資産は、各企業/連結納税対象企業グループに固有な特定の環境下、及び特に以下の場合、認識されない。
  ‐予測期間及び経済環境の不確実性のため、企業が将来の課税所得から控除可能な繰越欠損金の額を評価できない。
  ‐企業が税務上の繰越欠損金を使い始めていない。
  ‐企業は税務当局に認められた期間内に欠損金を使う予定がない。
  ‐税務上の欠損金について、税法の適用に関して解釈が異なるリスクがあるため、使用に関して不確実性がある。
(フランステレコム 2010年度有価証券報告書 注記2.会計方針 2.19税金及び法人税より一部抜粋)


 企業の経済的実態を反映することができるようにするとともに、企業グループとして、「グループ全体の連結経営管理体制の強化」という視点をもってグループ・アカウンティング・ポリシーの策定を行う必要があります。


【参考文献】 社団法人 日本貿易会 経理委員会 『日本公認会計士協会監査委員会報告第66 号 「繰延税金資産の回収可能性の判断に関する監査上の取扱い」に対する要望』(2010年)

(注1) IFRS適用時にはスケジューリング期間に関して制限がないことから繰延税金資産の計上額が増加すると一般的にいわれることがありますが、それはケースバイケースで企業の実情により異なるものだと考えらます。
(注2) アーンスト・アンド・ヤングLLP編著 新日本有限責任監査法人監修「IFRS国際会計の実務(下巻)」(2010年 レクシスネクシス・ジャパン株式会社)

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