第37号 2011年09月28日
メルマガ vol.37 「ケーススタディ⑯ 資産の減損(2)金融資産」
今回のメールマガジンは資産の減損(2)です。今回は金融資産の「減損」という点を切り口にして金融資産(売上債権含む)について考えてみたいと思います。
まず、金融資産については新しい会計基準であるIFRS9(注1)に基づく金融資産(有価証券)の分類と減損という切り口から実務上の対応を考えてみたいと思います。
次に、IFRSでは営業債権に対する貸倒引当金の設定は、金融資産の減損の一類型として取り扱われることとなりますので、IFRSにおける営業債権の減損(貸倒引当金の設定)に関する基本的な考え方をおさえた上で、IFRSに基づく財務諸表作成に際しての実務上のポイントを取り上げます。
有価証券の分類と減損-IFRS9の考え方
IFRS9では金融資産(有価証券)を、「純損益を通じて公正価値で測定される金融資産(FVTPL)」と「その他の包括利益を通じて公正価値で測定される金融資産(FVTOCI)」、そして「償却原価で測定される金融資産」の3つに分類しています。IFRS9適用時には現在保有している有価証券の分類の再検討が必要になりますが、以下に述べる理由により「そもそもこの有価証券(投資)を保有し続けるべきか否か?」という点について判断が重要になってきます。
IFRS9では従来(IAS39)の売却可能金融資産(AFS)の概念を廃止し、FVTOCIに分類された金融資産については配当を除き(注2)、全ての損益がその他の包括利益として認識されることとなりました。この結果、FVTOCIに分類された金融資産については減損テストを行う必要がなくなりましたので、この点について従来論点となっていた『投資の公正価値の「著しい下落」「長期にわたる下落」とは何か?』(IAS39.61)という点については議論が不要となりました。
しかし、上述の通りFVTOCIに分類された金融資産に係る損益は全てその他の包括利益で認識されることになりますから、当然、FVTOCIに分類された金融資産を売却したとしても当該売却益・売却損はその他の包括利益で認識されることとなり、純損益には含められない(リサイクルは認められない)こととなります。
よって、従来日本企業で行われていたいわゆる「益出し」はできなくなりますし、単にFVTOCI投資を保有し続けることは、そのような投資が「塩漬け」になってしまうリスクを孕むこととなります(投資の公正価値が下落すれば直接に資本を毀損する要因になります)。
従って、IFRS適用前にこのような投資(持ち合い株・戦略的投資株)の保有目的について再検討を行い、「売却できるものはIFRS適用前に売却してしまう」といった投資の整理を行っておくことも経営戦略上重要なポイントといえます。
IFRS9における非上場株式の「減損」
さて、現行のJ-GAAPでは会計監査上も論点になることが多い非上場株式の減損はIFRS9ではどのように捉えることになるのでしょうか?
非上場株式はIFRS9の枠組みでは、FVTOCIに分類されることがほとんどだと思います。この結果、全てのFVTOCI投資は公正価値で認識され、評価差額はOCIで認識されることになりますので、非上場株式の減損という考え方自体はなくなります。
その代わりに非上場株式の公正価値測定という非常に厄介な問題が生じます。IFRS9では「公表された市場価格がなく、その公正価値が信頼性をもって測定できない持分金融商品」について、取得原価(もしくは一定時点での再評価額)での測定を容認するIAS39の規定が廃止されましたので、マルチプル法・FCF法・残余利益法・簿価純資産法等の評価技法を用いた公正価値評価を行う必要があります。この点については、メールマガジン11号~13号と21号(IFRS最新情報第4回~第6回及び第8回)「非上場株式の評価①~④」で非上場株式の評価技法も含めて詳細に解説をしていますので、そちらをご覧ください。
実務上の対応として、非上場株式の公正価値の算定に関するグループ会計方針の策定及び業務プロセスの整備等が必要になりますが、保有する全ての非上場株式について公正価値による測定を行うことは困難を伴うことも多いため、IFRSの適用に際し重要ではないものについては「その差異に重要性がないことを立証する」といった重要性に基づく対応を行うことも必要と考えられます(重要性の考え方についてはメールマガジン25号と29号(IFRS最新情報第11回と14回)をご覧ください)。
営業債権の減損-貸倒引当金の設定
さて、ここからは営業債権の減損に話を移したいと思います。
IFRS9が適用された場合、営業債権は償却原価で測定される(負債性)金融商品に分類されます。そして、貸倒引当金の設定は、資産からもたらされる「将来キャッシュ・フローの減少」という考え方に基づいて、資産の減損の枠組みで捉えられます(注3)。
すなわち、営業債権に減損を示す客観的証拠(トリガー・イベント)の有無と、債権の回収可能性に応じて貸倒引当金の設定、もしくは減損損失の認識(純損益にインパクトさせる)を行うことになります。

実務上のポイントとしては、個別に重要な資産についてはJ-GAAPにあるような債務者区分等に関わらず個々に減損の判断が必要となる点や、集合的査定の際のグルーピングに際して、信用リスクの特性に基づく同質性の高いグルーピング方針の決定、貸倒実績率の修正等が挙げられます。
連結ベースでの滞留債権(期日経過済債権)の把握と開示
さて、金融商品の減損というテーマに関連する金融商品の開示の基準(IFRS7)についても少し触れたいと思います。
IFRS7「金融商品-開示」では、金融商品に関する様々なリスクの(信用リスク・流動性リスク・市場リスク等)開示が求められています。このうち信用リスクに関する開示として金融資産のうち「報告日現在で期日超過の状態になっているが、減損処理していない金融資産の年齢分析」を3か月以下・3か月超6か月以下・6か月超1年以下・1年超等の期間枠に分けて開示を行う必要があります。
現在のJ-GAAPの枠組みでは、有価証券報告書の個別財務諸表の一部(「主な資産及び負債の内容」)で営業債権の主な相手先別内訳と発生及び回収並びに滞留状況等の開示が求められているのみでした。
IFRS7の規定に基づく住友商事株式会社の開示例を見てみましょう。

この開示例によると2011年3月末では住友商事グループ全体で、106,786百万円の債権について期日が経過していることが分かります。2011年3月31日時点における住友商事株式会社の総資産(連結)は7,230,502百万円ですから、単純に計算すると連結ベースで約1.4%の債権(営業債権及びその他の債権の残高は2,133,856百万円ですから、これに占める比率でみると約5%)が滞留しているということになります。
IFRSの適用にあたっては、このような情報を如何にタイムリーに早くできる体制を構築することも重要ですが、これを単なる連結上の集計作業ではなく、企業グループとしての債権管理やリスクマネジメントに役立てる必要があります。
【参考文献】
●アーンスト・アンド・ヤングLLP 新日本有限責任監査法人監修「IFRS 国際会計の実務(金融商品・保険契約)」(2011年 レクシスネクシス・ジャパン株式会社)
●新日本有限責任監査法人編著「完全比較 国際会計基準と日本基準」(2009年 レクシスネクシス・ジャパン株式会社)
注1)IFRS9は2013年1月1日開始事業年度より適用されることとなっていましたが、2011年8月4日にIASBはIFRS9の適用日を2015年1月1日開始事業年度に延期することを提案するED「IFRS9号の強制適用日(Mandatory Effective Date of IFRS 9)」を公表しています(早期適用は可能)。ちなみに、日本企業でIFRSベースの連結財務諸表を作成している4社(日本電波工業・HOYA・住友商事・日本板硝子)のうちIFRS9を早期適用しているのは住友商事のみです。
注2 )ただし、配当が明らかに投資の回収(元本の回収)である場合には、OCIで認識することになります。
注3 )なお、金融資産の減損に関して現在検討されている新しい減損モデル(期待損失モデル)では、「割引の影響が重要でない場合は厳密に適用しない」簡便法が認められているため、金融機能のない取引においては期待損失モデルを適用しないことが実務上は多くなると考えられます。
