第39号 2011年10月25日
メルマガ vol.39 「ケーススタディ⑱ 外貨換算~IAS21・IFRIC16(2)」
今回のメールマガジンでは前回に引き続きIFRSにおける外貨換算の論点を取り上げます。

今回は、上表に従い、「在外営業活動体に対する純投資の処分」と「在外営業活動体に対する純投資のヘッジ(IFRIC16)という2つの論点を中心的にみていきます。特に後半で紹介するIFRIC16の内容は、基本となるIAS21の内容を把握していないと理解が難しい解釈指針ですので、開示例も参照しつつ丁寧に読み解いていきましょう。
在外営業活動体に対する純投資額の処分
現在のJ-GAAPでは、在外営業活動体に対する投資の一部を処分した場合には、売却損益を計上するとともに、持分減少割合に相当する為替換算調整勘定を取崩して株式売却損益に計上することとなります(注1)。
この点IAS27号30項では、在外営業活動体に対する投資(持分)を売却したとしても、当該在外営業活動体に対する支配(もしくは重要な影響力)が継続する場合には、投資の処分から生じる損益を認識しません。これはIAS21では、支配(もしくは重要な影響力)の喪失を伴わない投資の売却は、少数株主との資本取引であるという考え方に基づくものであって、売却持分に対応する為替換算差額を少数株主持分に振り替える処理が行われます。この会計処理をフローチャート化すると以下のようになります。
なお、ここでいう「処分」とは、当該事業体の全部もしくは一部の売却、清算、株式資本の償還、又は放棄等をいい、単なる在外営業活動体の帳簿価額の引き下げは、在外営業活動体自身で発生した損失又は投資元での減損損失の計上のどちらの場合でも、「処分」とはならないことに注意が必要です(注2)。よって、このような資産を評価減すべき事象が発生したとしても、その他の包括利益を通じて認識された為替換算調整勘定を資本から損益に振り替える(リサイクルする)ことはできません(IAS21.49)。
財務上の戦略という観点からすると、在外営業活動体の留保利益をどのように本国の親会社に還元させるかという点は極めて重要です。なぜならば、親会社で認識された配当は投資の部分的処分としては扱われないことになりますが(IAS21.BC35)、例えば株式の部分的償還に拠った場合には「処分」に該当し、為替換算差額の損益への振替(リサイクル)が行われる可能性があるためです。この点は単に法的形式ではなく、取引の実態を踏まえた判断が要求されるため、IFRS適用時は慎重な判断が要求される事項です。
在外営業活動体に対する純投資額のヘッジ―概要
ここからは「在外営業活動体に対する純投資額のヘッジ‐IFRIC16」に話題を転じたいと思います。
昨今のような円高進行局面では、日本企業による外国企業のM&A・直接投資も増加する傾向にありますが、円高の進行に伴い、在外営業活動体への投資額を円換算した金額が減少することになります。このような場合、為替レートの変動による投資額の目減りを抑えるため外貨建の投資ルールをグループ会計方針として策定することも考えられます。例えば、一定金額以上の外貨建投資案件にはその案件ごとに現物もしくはデリバティブによるヘッジをルールとして策定することが考えられます。
IFRSもこのようなヘッジ取引について、規定を置いています。IAS39号の86項(c)は、ヘッジ会計の一つの方法として、在外営業活動体に対する純投資額のヘッジを規定しています。そしてこのIFRIC16号は、在外営業活動体に対する純投資のヘッジに関する解釈指針であり、ヘッジ会計を適用する際に充足すべき要件、また、これらの要件がヘッジ関係にあるヘッジ手段とヘッジ対象の会計処理に及ぼす影響、及びヘッジされていた在外営業体の処分の際に適用すべき会計処理について規定しています。
在外営業活動体に対する純投資額のヘッジ―開示例
在外営業活動体に対する純投資ヘッジの概略を理解したところで、IFRIC16号の内容を具体的な開示例をみて考えてみましょう。 
(1)ヘッジとして適格な為替リスクの範囲は?
IFRIC16号の合意事項1は、ヘッジ会計の対象として適格な為替リスクの範囲は、在外営業活動体の機能通貨と親会社の機能通貨の間で生じる為替リスクであることを明らかにして
います(IFRIC16.10-13)。上記の住友商事の開示例では上段に該当する部分ですが、まさにその点に関する注記であることが分かります。
(2)どの企業が純投資に対するヘッジ手段を保有できるか?
この論点を理解するために、具体的に純投資ヘッジとはどういうものなのかをIFRSの規定と数値例を使って考えてみたいと思います。


簡単に言うと、円高によって生じる資産の目減り(1,000)を円高によって生じる負債の目減り(1,000)で為替変動リスクを打ち消そうとするのが純投資ヘッジの基本的な考え方です。このような会計処理により純投資から生じる為替換算調整勘定(マイナス)とヘッジ手段である外貨建借入金から生じる換算差額(プラス)との間でヘッジが成立することとなります。
この設例では、親会社の投資をヘッジする目的で親会社が借入を行っていると想定していますが、IFRIC16号合意事項2は、グループ内であればどの企業でもヘッジ手段を保有でき、さらにヘッジ手段はデリバティブでも現物でもよいということを明らかにしています(IFRIC16.14-15)。この規定は、企業グループ内でのヘッジ戦略として、ヘッジ手段がヘッジすべきリスクに対して適切に保有できているか否かを十分に確認できていなかった企業ではヘッジ戦略の見直しという点から、有用な規定であると思います。
ちなみに、開示例で紹介した住友商事は、在外営業活動体に対する純投資の為替変動リスクを回避するために通貨スワップ及び外貨建借入金を利用していることを明らかにしています(同有価証券報告書 25 金融商品及び関連する開示)。
(3)資本から損益に振り替える為替換算調整勘定の算定方法は?
さて、「在外営業活動体に対する純投資額の処分」と「在外営業活動体に対する純投資額のヘッジ」という二つの論点をみてきましたが、最後にこの2つを組み合わせた非常に悩ましい論点について簡単に触れておきたいと思います。
それは、企業グループ内に中間親会社が存在し、その中間親会社と子会社が異なる機能通貨を有する場合に、「企業が在外営業活動体に対する純投資を処分する場合に、ヘッジ対象及びヘッジ手段に係る為替差額のうち資本から損益へ振り替えられる金額はどのように算定すべきか?」という論点です。
この論点は間接所有している子会社の連結方法と関係があります。つまり、間接所有している子(孫)会社の連結方法として直接法・段階法のいずれを用いるかで、各子会社等に帰属する個社レベルでの為替換算調整勘定の金額は異なることになり、純投資の処分に際して純損益に振り替える(リサイクルする)金額の決定に差異が生じることとなります(但し最終的な連結財務諸表上(表示通貨)の為替換算調整勘定は一致する)。

この点IFRIC16の合意事項3は、連結方法としていずれの方法を用いているかに関わらず、処分時の資本から損益への振替額の算定に関しては、会計方針の選択の問題であるとしています。その上で、全ての純投資に関して、直接法又は段階法のどちらかに基づいて算定された金額で資本から損益に振り替えることができることを明らかにし、継続適用を求めています(IFRIC16.17)。
J-GAAPでは、子会社持分に係るヘッジ取引について、IAS21及びIFRIC16と同様の規定が存在します(注3)がIFRIC16ほど詳細な規定は存在しませんので、留意が必要です。
なお、このIFRIC16は、会計処理方法の選択により結果に差異が生じてしまうことから現在もIASBで議論が継続しています。
【参考文献】
●アーンスト・アンド・ヤングLLP 新日本有限責任監査法人監修「IFRS 国際会計の実務(上巻)」(2010年 レクシスネクシス・ジャパン株式会社)
●新日本有限責任監査法人編著「完全比較 国際会計基準と日本基準」(2009年 レクシスネクシス・ジャパン株式会社)
●日本公認会計士協会 会計・監査ジャーナル 中井雄一郎『IFRS及びIASの解説「第28回 IAS21「外国為替レートの変動の影響」、IFRIC16「在外営業活動体に対する純投資のヘッジ」(2011年1月号)
注1)「外貨建取引等の会計処理に関する実務指針」(会計制度委員会報告第4号)第42項を参照
注2) また、在外営業活動体がIFRS第5号に定められる売却保有目的に分類されただけでは、為替換算調整勘定を損益に振り替えません。
注3)「外貨建取引等の会計処理に関する実務指針」(会計制度委員会報告第4号)第72項を参照。なお、外貨建取引等会計処理基準注解13及び外貨建取引等の会計処理に関する実務指針第35項及び金融商品会計に関する実務指針第165項も参照。
