第40号 2011年11月08日
メルマガ vol.40 「ケーススタディ⑲IFRS5~売却目的で保有する非流動資産及び非継続事業 」
今回のメールマガジンでは「IFRS5 売却目的で保有する非流動資産及び非継続事業」を取り上げます。IFRS5はその名の通り、帳簿価額が継続的使用よりも主として売却取引により回収される非流動資産(又は処分グループ)の測定・表示及び開示と非継続事業の表示及び開示を取り扱っています。このIFRS5ではIG(Guidance on implementing:適用ガイダンス)が重要ですのでこのメールマガジンでも可能な限り取り上げてみたいと思います。
売却目的資産や非継続事業に関する包括的な会計基準は現行J-GAAPにはありませんが、強いて言えば減損会計基準と関連性が強いですので、減損会計基準との関係性も踏まえて理解を深めたいと思います。
また、今回開示例で取り上げるのは2012年3月期第1四半期報告書でIFRS5に基づく開示を行ったHOYA株式会社です。
IFRS5売却目的保有資産の基本的な会計処理‐J-GAAPとの比較
上述の通り、現行J-GAAPにはIFRS5に相当する会計基準はありません。「固定資産の減損に係る会計基準」の中で、減損の兆候の例として、事業の廃止又は再編成、早期の処分、用途の変更等が挙げられています(注1)が、そのような状況にある資産を貸借対照表上別掲するような取扱いまでは要求していません。
IFRS5では、売却目的保有に分類した非流動資産(又は処分グループ)について、「帳簿価額」と「売却費用控除後の公正価値」のいずれか低い金額で測定する必要があります(IFRS5.15)。なお、売却目的保有資産への分類に際しては、非流動資産の帳簿価額が売却費用控除後の公正価値を超過する金額は減損損失として認識する必要があります(IFRS5.20)。
次のような設例で現行J-GAAP(減損会計基準)とIFRS5の相違に対する理解を深めましょう。
T社は当期(x1年4月1日~x2年3月31日)において、本社機能を有する自社ビルを1年以内に第三者に売却をする意思決定を行った。期末日において当該ビルの簿価は2,000百万円であり、その公正価値は700百万円である(減損損失を計上する要件は満たしているものとする)。ここで、(1)現行J-GAAPにおいて必要な仕訳、(2)IFRS5において必要な仕訳を答え、(3)J-GAAPからIFRSへの組替仕訳も答えなさい。
(1)J-GAAPにおける仕訳
(借方)減損損失 1,300 (貸方)固定資産 1,300
(2)IFRS5における仕訳
(借方)減損損失 1,300 (貸方)固定資産 2,000
売却目的保有資産 700
(3)IFRSへの組替仕訳((2)-(1))
(借方)売却目的保有資産 700 (貸方)固定資産 700
そして、売却目的保有に分類された資産(または処分グループ)は、その時点から減価償却を中止することになりますが、当該処分グループの負債に関する利息とその他の費用は継続して計上することになります(IFRS5.25)。
但しIFRSにおいては減損処理後に当該資産の公正価値が回復した場合にはIFRS5号またはIAS36号に従って認識した減損損失額を超過しない範囲で戻入を行う必要がある点を忘れないようにしましょう(IFRS5.21,22)。
売却目的保有資産への分類要件
さて、企業がある資産(又は処分グループ)を売却保有目的に分類するためには以下の3つの要件を満たす必要があります。
①現況のままで即時に売却可能である(IFRS5.7)
これは企業が資産(又は処分グループ)の売却において通常又は慣習的な条件である限り、現状で直ちに売却することが可能でなければならないということです。この要件に関するIFRS5の適用ガイダンスを見てみましょう。
企業は本社ビルを売却する計画を確定させ、買手を探し始めている。
(a)企業はビルを空にした後にビルを移転することにしている。建物を空にするのに必要な期間は、このような資産の売却にとって通常かつ慣例的な期間である。よって、即時に売却可能という要件は計画の確定日において満たされることになる。
(b)企業は新しい本社ビルが完成するまでは当該ビルを使用し続ける。企業は新本社ビルが完成する(既存の建物を空にする)までは既存ビルを買手に移転するつもりはない。当該企業による建物の移転時期が遅れた場合、ビルは直ちに売却可能でないことは明らかである。よってこのような場合には、即時に売却可能という要件は、既存のビルの将来の移転に関する確定契約が事前に締結されていたとしても新本社ビルが完成するまでは満たされないこととなる。
(出所:IFRS5 IG 設例1)
②売却の可能性が非常に高い(IFRS5.7)
可能性が非常に高いとは「可能性が高い」よりも「明らかに可能性が高い」ことを指し(注2)、売却の可能性が非常に高いといえるためには、次の要件を満たす必要があります(IFRS5.8)。
■
適切な地位の経営者が当該資産(又は処分グループ)の売却計画の実行を確約していること。
■買手を探し売却契約を完了させる活発な計画が開始されていること
■資産(又は処分グループ)は積極的に売り込まれており、その販売価格は現在の公正価値との関係において合理的であること
■
売却保有目的に分類した日から1年以内に売却の完了が見込まれなければならない(例外あり)
■
計画を完了させるために必要な行動がとられることで、計画に重要な変更が行われたり、計画が撤回される可能性が低いことが示唆されていること
この内、「1年以内に売却が完了」という要件が特に重要になってきますが、事象や状況によっては売却の完了までの期間が1年を超えることも想定されるためこの要件については例外規定が設けられています(IFRS5.9)。実務上は、この1年ルールとその例外規定を含めた資産(又は処分グループ)売却への企業としてのコミットメント・実行可能性を明らかにしておく必要があります。
③「廃棄」ではなく「売却」
3つ目の要件はシンプルなもので、売却によるのではなく「廃棄」(もしくは除却)される予定の資産を売却目的保有資産に分類してはならないというものです。
関連するポイントとして、IFRS5は一時的に使用しなくなった非流動資産を廃棄されたかのように会計処理してはならないとして次のような例を挙げています。
企業は、製品に対する需要が減少したため製造工場の使用を中止する。しかし、工場は稼働可能な状態で保持され、需要が回復すれば再稼働されることが期待される。このような場合においては工場は廃棄されたとはみなされない。
(出所:IFRS5 IG 設例8)
但し、実務上このような状況においてはIAS36号に従って減損損失を認識する必要性を検討する必要が出てくるでしょう。ここでも、IFRS5と減損会計との関係を整理しておくことが実務上の複雑な処理を行う上での重要なポイントになることが分かります。(減損会計についてはメールマガジン第36号を参照して下さい)。
以上3つの要件についてIFRS5の適用ガイダンスを参考に考えてきました。このような売却目的資産への分類要件が(形式的な要件も含め)厳格に規定されているのは、根本的に売却目的資産へ資産を分類すること自体が経営者の意図によるものであって、利益操作を防止し、会計処理の信頼性・比較可能性を高めるという観点からは、経営者の売却の意図の確実性を担保する必要性があるからです。
それでは、ここまで理解したところで、実際にある事業を売却保有目的へ分類した場合のHOYA社の開示例を見てみましょう。注記に開示されている情報とB/S本表のどこが一致している情報であるかも確かめましょう。

非継続事業に係る損益の開示例
非継続事業とは「すでに処分されたか又は売却保有目的に分類された企業の構成単位で、かつ、①独立した主要な事業分野又は営業地域である②独立した主要な事業分野又は営業地域を処分するための単一の計画の一部である③売却のためのみに取得された子会社であるという要件のいずれかを満たすものであると定義されています(IFRS5.32)。
ここでのポイントは「廃棄」予定の資産を、どの時点で非継続事業として財務諸表上、報告するかという点です。すなわち、上述のように、「廃棄」予定の非流動資産(又は処分グループ)を売却保有目的資産に分類してはなりませんが、廃棄予定の処分グループが非継続事業の定義を満たす場合には、包括利益計算書及びその注記において「その使用が停止される日」をもって廃止事業として処理するとされています(IFRS5.13)。すなわち包括利益計算書において廃止事業としての取扱いがなされるのは廃棄が決定されたその時からではなく、「廃棄が実際に行われる期間」からである点に注意が必要です。この点については次のIGを参考にしてみましょう。
20x5年10月、企業は主要な事業である紡績事業の廃止を決定した。紡績事業は20x6年12月31日終了事業年度において全て停止される。この場合20x5年12月31日終了事業年度の財務諸表においては紡績事業の業績及びキャッシュ・フローは継続事業として扱われる。20x6年12月31日終了事業年度の財務諸表においては、紡績事業は非継続事業として取り扱われIFRS5に従った開示が要求される。
(出所:IFRS5 IG 設例9)
最後にHOYA社の非継続事業に係る開示例を見てみましょう。

この開示例でひとつ興味深いのは、この非継続事業に関するキャッシュ・フロー情報の開示については「注記若しくは財務書表本表でなされる」(IFRS5.33(c))とされているところHOYA社は要約四半期連結キャッシュ・フロー計算書と非継続事業に係る注記の双方で2段構えの開示を行っているという点です。
【参考文献】
●アーンスト・アンド・ヤングLLP 新日本有限責任監査法人監修「IFRS 国際会計の実務(上巻)」(2010年 レクシスネクシス・ジャパン株式会社)
●新日本有限責任監査法人編著「完全比較 国際会計基準と日本基準」(2009年 レクシスネクシス・ジャパン株式会社)
●新日本有限監査法人編「勘定科目別 IFRS適用の実務ポイント」(2009年 中央経済社)
●監査法人トーマツIFRSサービスセンター編著「IFRS財務諸表への組替実務(第2版)」(2009年 中央経済社)
●橋本尚 山田善隆著「IFRS会計学基本テキスト」(2009年 中央経済社)
注1) 「固定資産の減損に係る会計基準注解(注2)」参照。
