第41号 2011年11月28日
メルマガ vol.41 「ケーススタディ⑳~IFRS7金融商品(開示) 」
今回のメールマガジンではIFRS7に基づく、金融商品の開示を取り上げます。

今回は数あるIFRS7の開示に関する論点の中から、IFRS適用時に特徴的な開示となる①企業の財務諸表が金融商品から受ける影響の重要度に関する開示の「公正価値のヒエラルキーのレベル別内訳」と②金融商品から生じるリスクの内容・範囲・リスク管理に関する開示の「感応度分析」について、実際の開示例も参照しながら、IFRS7で求められる開示への理解を深めたいと思います。
金融商品の影響についての開示~公正価値ヒエラルキー/Day1損益
まず、①企業の財務諸表が金融商品から受ける影響の重要度に関する開示についてです。
リーマンショックに端を発した金融危機を受けて2009年3月に改訂されたIFRS7では、公正価値測定に関するヒエラルキー(階層)別の開示が導入されました。公正価値測定に関するヒエラルキーとは、金融商品の公正価値を算出するために用いられたインプットの情報源のレベルのことです。
インプット分類 |
<定義> |
<例> |
レベル1 |
活発な市場における同一の資産又は負債に関する公表価格 |
・株式市場で観察される同一企業の株価 |
レベル2 |
資産又は負債について直接的又は間接的に観察可能となる、レベル1 に含まれる公表価格以外のインプット |
・株式市場で観察される類似企業の株価から計算される評価倍率(株価純収益率など) |
レベル3 |
観察不能なインプット |
・キャッシュ・フローや損益の財務予測 |
(出所:IFRSメールマガジン13号「非上場株式の評価(3)」)
企業は財務諸表に認識されている金融商品の公正価値測定のヒエラルキーについて、以下の情報の開示が求められます。(注1)
○ 分類された公正価値のヒエラルキーのレベル
○ レベル1と2の間の重要な振替があった場合、その旨及びその理由
○ レベル3について期首残高と期末残高の調整
○ 期間中の純損益に含まれる総利益又は総損失
○ レベル3に分類される場合、代替可能な仮定への変更の影響、その算定方法
(以上につきIFRS7.27B)
このうち特に注目したいのが、レベル3の公正価値に関する開示です。上記のとおり、IFRS7では公正価値測定される金融商品の分類は、その公正価値を算出するために用いられたインプットの情報源を参照して判断するものとされていますが、レベル3の公正価値は観察不能なインプットに基づくため、その公正価値算定の根拠が企業の設定した仮定や自社のデータに基づかざるを得ません。このため利害関係者からの客観的な検証が難しく、開示内容が拡充されているのです。
実務上の対応として、必要となるデータの特定、データ集計方法の確立、あるいはレベル3の公正価値測定に際してプライシングサービスを利用するか否かといった意思決定が必要になってきます。
実際のIFRS適用企業の開示例を見てみましょう。

なお、公正価値測定の開示に関連する論点として、いわゆる「Day1損益」に関する開示があります。
現行J-GAAPではこの「Day1損益」についての規定がありませんが、要するに「Day1損益」とは、市場が活発ではない場合に取得した金融商品について、実際の取引価格と評価技法を用いて算定された公正価値との間に生じた差額のことです。IAS39ではこのような損益は即時にP/Lに認識されずに繰り延べられ、当該金融商品の残存期間にわたって適切な方法により認識していくことになります。
IFRS7においては、このような「Day1損益」について、(a)繰り延べられた差額を認識するための会計方針及び(b)未認識の差額の総額と増減内容の調整表の開示を要求しています(IFRS7.28)。
金融商品から生じるリスクの開示~基本ルール
さて、次に②金融商品から生じるリスクの内容・範囲・リスク管理に関する開示について考えてみたいと思います。
まずこれらの開示にあたっては基本的なルールがあります。
- ①リスクのタイプ別に開示が求められている(信用リスク・流動性リスク・市場リスク等)
- ②定性的情報と定量的情報の開示が求められている
- ③経営者の視点からの開示が求められている
- ④IFRS7の規定はいわゆる“Minimum Requirement”(最低限の開示)であって、
例えば高度なリスク管理体制を有する企業が自発的により詳細な開示を行うことができる
「③経営者の視点からの開示」というのはJ-GAAPでもセグメント情報等の開示に関する会計基準(企業会計基準第17号)で登場したいわゆるマネジメント・アプローチに基づく開示と同様に、企業内部で報告用に用いられている情報に基づいて外部報告を行うべきという考え方です。IFRSではこの他にもヘッジ会計に関する開示など「経営者の視点」に基づく開示が求められる項目がいくつかあります。(注2)
また、IFRS7の規定は“Minimum Requirement”(最低限の開示)であるので、より詳細な開示を行うことで自社の企業価値を高めたいと考える企業にとっては腕の見せ所、ということもいうことができるでしょう。
市場リスクの開示~感応度分析
金融商品から生じるリスクには様々なものがあり、必ずしもIFRS7に掲げられているものに限られるわけではありませんが、市場リスクに関しては企業が種々のリスクが生起した場合にどの程度損益(注3)及び資本が影響を受けるかを開示するのが感応度分析です。
市場リスクには為替(通貨)リスクや金利リスク等種々のリスクが含まれますが、IFRS適用時に影響が大きい(実務上の工数が多い)と考えられるのが、これらの各種市場リスクの感応度分析に関する開示です。
IFRS7においては、企業は金融商品の市場リスクに関連した感応度分析として、(a)報告期間末日現在で晒されている市場リスクの種類ごとの感応度分析、(b)感応度分析の作成に用いた手法及び仮定、(c)過年度からの手法及び仮定の変更、並びに当該変更の理由を開示することが求められています(IFRS7.40)。
住友商事株式会社の為替リスクに関する開示例を見てみましょう。

この開示例から同社は1%円高になった場合に税引前利益は418百万円のマイナスの影響を受ける(2011年3月期)ことが分かります。さらに同社の開示では金利変動リスクに対する感応度分析も行われており、1%金利が上昇した場合には税引前利益が16,439百万円のマイナスの影響を受ける(2011年3月期)とされています。IFRS適用時の実務としてはこの開示を作成すること自体をゴールとするのではなく、このようにして作成した情報をどのように自社のリスク管理に生かしてゆくかが重要な点になってきます。
【参考文献】
●アーンスト・アンド・ヤングLLP 新日本有限責任監査法人監修「IFRS 国際会計の実務(金融商品・保険契約)」(2011年 レクシスネクシス・ジャパン株式会社)
●橋本尚 山田善隆著「IFRS会計学基本テキスト」(2009年 中央経済社)
注1) なお、メールマガジン13号「非上場株式の評価(3)」では公正価値測定に関しては非上場株式の評価という視点から取り上げていますので参照してください。
